• NEANDERTAL CASE STUDY – VOL.1 湖池屋 – #3

    第3回 KOIKEYA PRIDE

    3回に渡ってお届けする特別シリーズの最終回。
    前回は突然の社長登場!バイタリティ溢れる力強い言葉をたくさん聞かせていただきました。
    第3回は再び現場のみなさんとお送りします。スコーンでの苦い失敗談に、これからの湖池屋マーケティング部がめざすもの。オモテには出せないディープな話もいろいろ飛び出しました。湖池屋さんからの逆質問では、これまであまりお話しする機会のなかったネアンデルタールの作業フローについてもお答えしています。

    ▼第1回はこちら
    http://neandertal.jp/journal/10994/
    ▼第2回はこちら
    http://neandertal.jp/journal/11003/

    <ご参加いただいた湖池屋マーケティング部の方々>
     ムーチョチーム
       加藤さん(課長)
       小林さん(ブランドリーダー)
     スコーンチーム
       下阪さん(課長代理)
       小浜さん

     
    –– 佐藤社長のパワーに圧倒された30分でした。

    石井 すごいね、パワフル。
    小林 社内でも全く同じ感じです。もっと来いよ!って言うんだけども入る隙がないみたいな、入ろうと思ってるうちに違う話になるみたいな。
    石井 いい社長じゃないですか。こんな社長居ないですよ、こんな会社ないよなかなか。
    下阪 ですよね、みんな言いますよねそれね。こんな近いところに居はる人は居ないと思います。
    小林 僕らはこの会社しか居ないからよくわからないけど。
    下阪 まわりに聞いてると、社長なんて絶対会えないっていうよね。毎日のようにこんな喋ってることも絶対ありえないっていうし。
    石井 だからすごいと思う。15年前から変わってないからそのスタンスが。
    下阪 初めて会ったときどんな感じやったんですか?
    石井 ほんっとこのまんまで、初めましてでほんとにいきなりプレゼン。
    下阪 いきなり?
    石井 いきなり。
    小浜 えっ。胃に穴が空きそう・・・
    石井 炭酸飲料でなんか考えてって、オリエンはそれだけ言われて。
    小林 あ、でもなんかそんな感じですね。社長見てるとこういうオリエンの仕方って存在するんだ、みたいに毎回思います。電話で済ますときとかありますし。
    石井 だからね、DNAがやっぱり、みなさんに脈々と受け継がれてますよ、その、粗削りな。


    石井 あれはルーツあそこですよ。粗削りの丸投げみたいなとこありますよ。
    下阪 知らないうちに遺伝してるかもですね。
    石井 いや、してるしてる!完全に染まってますよ。
    小林 いや恐ろしいわあ。
    下阪 感じてないよね俺ら。
    小林 まだ数年でこうってことはさあ・・・ヤバいよ。
    石井 俺ははたから見てるんですごくわかるんですけど、章さんが湖池屋っていう会社に入って及ぼした影響って、すごい大きいと思うんですよね。その、あたらしいものを作ることとか、たぶんこんな会社になってない。みなさんほんとに、すごい、染まってます。
    下阪 考えるときに、なんか普通じゃダメだなって、思い始めてきましたね最近。既にあるものでは絶対にNOをくらうので、なにかしらいままでにないものとか。
    石井 あたらしい価値を作らない限りは意味がないって言う方ですもんね。
    下阪 だってわたしたち始め、ヒット打とうとしてたんです。ヒット打って繋げてくものなんだと、ブランドの育成って。でも社長は全然違うって。そんなん要らんと。
    石井 なにもない原野を見つけろみたいな。
    下阪 そうそうそう!
    石井 章さんは本当にあたらしいものを作るのが上手で、ゼロから1にするっていうのはすごいんすよ。1から100にするのもまた違ったテクニックが必要だけど、ゼロから1を作れる人って居ないから。
    下阪 少ないですよね。
    石井 貴重だと思います。
    小林 ムーチョは話し切った?
    新屋 ムーチョはだいぶ出ましたね。
    石井 スコーンの話もしないとね。

    スコーンの存在意義は・・・カラッポ?

    下阪 スコーンには加藤さんもしげちゃん(小林さん)も、以前は携わってたからね。ここに居るみんなが携わってるブランドやね。
    石井 あ、そっか、小浜さんが一年目からずっとスコーンチームで。
    小浜 そうですね、はい。
    石井 僕スコーンに関しては、一年目の失敗の話をきちんとしなきゃいけないなと思っていて。
    小林 あ、今日はそこが掘り返される会。
    石井 元々あれだもんね「青春のパワースナック」っていういちばん最初の設定の仕方が、そこが結構一回失敗・・・まあ失敗っていうか。
    下阪 うーん、でもチャレンジングでね、やっぱり、そこに市場を興そうっていう意志があったから、全然失敗ではなかったと思いますけどね。今に繋がってる感じはしますし。
    小林 若者のスナック離れって検索するといまでも最初にスコーン出てきますからね。
    下阪 そうそうそう。
    加藤 わたしはスコーンの一発目のリニューアルを見て、ほんとにこれムーチョに合うなって思って。それがあっての、ムーチョをネアンさんとやりたいなと。
    下阪 言ってましたよね!加藤さんずっと言ってたもんほんとに。ムーチョは絶対ネアンさんだって言ってね。
    石井 そっかそっか。
    下阪 洗練されててほんとにカッコいいなって感じでしたよね。


    石井 これもあれですよね、横書きのスコーンロゴのパッケージがあって・・・
    下阪 元々のね、30年ほとんど変わってなかったですね。
    石井 スコーンは、あの、捉えどころのないブランドっていうか。
    加藤 いや、そうなんです。
    下阪 意外に、あの、言っちゃなんですけどなにもないっていう感じやったんですよね。価値的な部分っていうか、根幹が。世界観がないんですよ。
    新屋 旧パッケージのどこを見てスコーンだと認識しているのかっていうのが、実は特にどこでもなかった、っていう調査結果が出てきましたよね。
    小林 だから旧パッケージのイメージが強固だったカラムーチョとは話がまた全然違うっていう。
    石井 そう、カラムーチョのほうはまだコアが掴みやすいというか、スコーンって真ん中になにがあるんだっけ?っていうのがね。
    加藤 そう、そうなんですよ。
    下阪 それはいまも常に考え続けています。
    小林 でも脱ジャンク、本格、っていうので、いかにもおいしそうなパッケージになり、一定の支持を得られてここまで来てると。
    石井 でもほら、本格!っていうロゴでもないじゃないですか。「すこーん」っていうその音だけ、理屈がないところが、もしかしたら、もしかしたら真ん中かもしれないと。だからいろんな味が乗っかるし、いろんなものに変化できる。例えばキャラメル×スコーンとかCRAFTスコーンになったり。
    下阪 カメレオンみたいな感じでね、いろんなものに変化できるっていう感じはあるんです。属性がないというか、なんて言ったらいいのかな。
    小林 「頭カラッポのほうが夢詰め込める」ってなんでしたっけ?
    石井 いいねえそれ。
    下阪 それなんやったっけ?
    松野下 ドラゴンボールですね(笑)。
    小林 なんかそんな感じじゃないすか。
    石井 それはそうかもしれない。いま改めて見ると一年目のデザインもバカっぽくていいね。バカさ加減が出てる。
    小林 こいつはバカなんだけど、なんにでもなれるみたいな。「青春はちょっとバカ」って一年目のコンセプトからスタートしてるし、これもちょっと、バカっぽさっていうか、原始的な。

    チーム戦でブランドをメンテナンスし続ける。

    石井 俺いまでも思い出すんだけど、小浜さんが泣いたじゃん。
    下阪 それね、知らないんすよね。
    加藤 えーえーいつ?
    小浜 今日絶対その話されるだろうなと思ってなるべく黙っていようと・・・
    石井 いやいや今日のメインテーマですよ。


    小浜 あの、一年目のデザインで、調査もあんまり出てない段階で、その、リニューアルをもう一回早々にかけないといけないって話が出て。
    石井 思ったより伸びないって言ってね。
    小浜 そうですね、決して落ちてはいなかったんですけど、まあ狙っていたほど跳ねない伸びていかないっていうので、本当にこのパッケージのままでいいのかと、そのときのブランドマネージャーも課長もすごく悩んでいて。
    石井 どうすんだよ!ってね。
    小浜 リニューアル一年目のスコーンって、いままであったシズルの表現とか、そういうの全部一回取っ払って、もうあたらしいものを作ろう!っていうコンセプトでやっていたのが、すごい革新的だなと思って、好きだったんですよ。黒いパッケージっていうのもめずらしいし。それなのに、じゃあやっぱりシズルかあみたいな感じの話になって、いや、そもそもデザインってそんなにすぐ変えていいものなのかなとか、いろんな思いで居たときに、小浜さん変えたほうがいいと思いますか?ってゲンさんに訊かれて。ゲンさんはうーん、とはいえはっきりした調査結果もまだあまりない状況で、まあ出したばっかりで判断が早過ぎるっていうのもあるし、結局どうしたいんですかねえ、変えるべきなんでしょうかねえ、みたいな話をしてて、でもチームとしては、それでもお願いしますっていう・・・
    下阪 もう変えろって指示されてるから行かざるを得ないし、でもねえ、そのあいだに挟まれてなあ。
    小浜 そうですね~、で、なんか・・・涙がこぼれましたね。
    石井 いや俺はね、すごく感動したというか、そのなんだろう、これは確かに伸びなかったけど、間違いでもないよねとは思ってたんですよ。別にその調査結果も、ダメではないと。
    小浜 そうなんですよ。
    石井 だけど強烈な支持があるわけでもないっていうタイミングのときに、こっちも、そのまだふわふわしてる状態ではこれ以外作れないなって思って、ただそのクライアントが、わーって、変えてくださいって・・・うーん、っていうときに、小浜さんの目を見たら燃え上がる炎がぽっとあって。こいつは新人だけど骨があるぞと思って、小浜さんはどう思いますか?ってニュートラルに訊いたら、わたしは変えたくない、って言ってくれて。本当にそのひとことに勇気をもらったというか、自信をもらったというか。あれ覚えてますよずっと。
    小浜 あー、もう、わたしもずっと覚えてます。
    石井 泣くなよ!っと思ったわけ。泣かすつもりじゃなかったわけよ。
    下阪 別に詰めるわけじゃなかったと。単純に聞きたかったんですよね気持ちを。
    石井 そうなんですよ、当時の上司のおじさんたちがかなりもうやられてて。
    小浜 そうなんです、本当にもうズタズタで・・・それにしても、あまりにも、あきらめが早い。


    小浜 もっと、粘れ!ってそのときわたしは、その当時のブランドリーダーとかに思ってて、でもほんとにもうボロボロだったんで、且つあんなに力をかけてやったリニューアルの、もう、通知表が出る瞬間からの、変えろ変えろって、うーん、社会というものは厳しいなあと。
    下阪 そうやなあ、厳しいよなあ。
    小浜 あのとき、配属されて以来いちばんやらかしたと思って、瞬間にみなさんの顔を見たらなんか、親のような目でみなさんが。
    石井 親心よ親心、泣かすつもりじゃないんだよお!みたいな。
    小林 たぶんみんなが思ってたのは、「あ、新人の女の子泣いちゃったあ」って感じではなくて。ほんとにこれに全身全霊をかけてこれがいいと思っていたものに対して、ダメとも決まってないのにダメと言われてるこの理不尽さよ!っていう泣きだったわけだよね。
    小浜 そう。そうですね。
    石井 俺はすごい嬉しかったよだから。
    小浜 ああ、よかったです・・・
    石井 つくり手としては、すごく嬉しかったというか。
    小林 社会人生活一年目でそういう喜怒哀楽を知ってしまったんだね。
    下阪 ジェットコースターみたいやったやんなあ、あれ。リニューアルした2月にぶわーっと上がって、いやすごかったなー!なんて言ってたら4月5月ドドドドドーって。
    加藤 そのあと俺らふたり担当したじゃん、どうしようかと思ったよね(笑)。
    小浜 これだけがらっと変えて、それでもお客さんがついてきてくれてる。そのこと自体を誰も評価してくれないんだ、とかいろいろな気持ちになりましたけど。でも二年目のデザイン変更で実際状況は良くなったりもしたので、まずはやってみるということも大事だなと。
    加藤 試金石として発売した禁断のシーフード味が好調だったっていうのもね。
    下阪 ここがいちばんね、大きいねやっぱね。
    小林 あれが一年目の夏だね。
    下阪 これがイケる!ってなった瞬間にもう、このデザイン踏襲したもんね。
    石井 だからやっぱり、メンテナンスっていうのはすごく大事で。ちょっとずつだけど、コアの部分はずらさずにメンテナンスをかけていく作業は大事なんですよね。こうやってチームを組んで長く関わらせていただいているからこそできることで。
    小浜 やっぱりこっちのほうがおいしそうだし。
    下阪 いまのラインナップもね、調査かけるとおいしさの評価がどんどん上がってますからね。
    石井 やっぱね、スコーンってのはカラッポなところがよくて、これはキャリア、運び屋だから、そこに乗っかるおいしさ、ってのが本質だったのかもねって、二年目になって僕らもわかって、それはすごい勉強になったというか。一発で決められなかった申し訳なさはあるんですけど、ちょっとずつ発見していって、あ、ここかもしれないねっていうのを繰り返していく。
    下阪 いやいいと思う、チャレンジの湖池屋なんで。お客さんもたぶんそこが楽しいんだと思います。あ、いろいろ変わってるな、湖池屋攻めてるなあって。
    石井 うんうん、またやってくれたな!ってね。
    下阪 いい意味で裏切ってくれたって。 ほんとにたぶん、いろんなブランドがね、こうやってリニューアルしていって、あたらしくなって現代化されてっていうのが、お客さんの中で、湖池屋のイメージがすごく変わってきている。ほんとありがたいですよね、みなさんにこうやって携わってもらえて。
    石井 いえいえそんな。
    小浜 もっともっと店頭に並んでほしいですね。
    下阪 や~そうなのよね~。
    石井 確かに!並んでほしいよね。
    小林 なんかやっぱさ、コンビニで見つからないと人は存在しないと思っちゃうんだよね。
    下阪 そこがね~。
    小林 いまのコンビニには、うーん・・・
    石井 いまのコンビニの状況ってどうですか?その、メーカーとして。

    これからどう頑張っていくんですか、湖池屋さん。

    加藤 なんでしょうね、なんか、うーん。賢いやり方だとは思います。
    小浜 コンビニ同士で差別化しようとすると、どうしてもPB主体になっちゃうんですよね。
    小林 もし僕がコンビニの担当者になったらって考えると、同じことをするだろうなと思う。これが世界を良くする手段だと。
    石井 そうなのかもしれないすね。でもPBも、どこが作ってるのかな?って裏を見ると、湖池屋さんだったり、大手のメーカーだったりする。それは消費者もみんなわかってると思うんですよ。じゃあ全部PBになっちゃうの?って、俺は寂しくなるんです。


    小浜 わたしはいろんなメーカーのお菓子がそうなっているのを見て、担当者はさぞかし悲しいだろうなと思ったんですよ。画一的なパッケージを着せられて、これを育ててきた担当者の方はさぞくやしいだろうなと・・・
    加藤 逆にいま、カルディさんとかドン・キホーテさんとか、ああいう雑多な売り場の中から、自ら選ぶ、探しに行くっていうのが価値として見受けられるのは、コンビニの対極にあるのかなと思いますよね。
    石井 ワクワクする売り場なのかどうかってとこだよね。
    加藤 元々コンビニって、NB(ナショナルブランド)の集合体の、最先端の売り場だった。
    下阪 情報を採りにコンビニへ行く、みたいなところありましたよね。
    小林 いまで言うカルディさんだったんじゃないですか?そこに行けばいつもあたらしいものがあると。
    加藤 カラムーチョもね、コンビニから拡がったっていう歴史もあって。
    石井 さっき章さんとの話にも出ましたけど、その、時代ってエッセンシャルなものに集約されていってる。もう章さんとか俺とかが寂しいよって言っても、たぶんそれは抵抗できないくらいの流れになってるような気がして。そういう時代に、湖池屋さんってどうやって頑張っていくんですかって気概を、聞かせてほしい。
    加藤 そこですよね。
    小林 かと言ってなんか、マイナーなあぶれ者をやり続けますっていうような企業でもないと思うんですよね。反対にどメジャーなものばっかりやってますっていう企業でもないから、非常に規模も、シェアも、そのあいだぐらいに居る感じですよね。どっちにもなれるよね。
    下阪 ちょうどいいねほんと、動きやすいうちらは。
    石井 挑戦もできるし、ニッチでもないしっていう。確かに。だからもう、PBに置き換えられないブランドを作るしかないですよね。
    下阪 オリジナリティってところでいくと。
    加藤 佐藤社長が湖池屋にいらっしゃって、もう他社を見ないって宣言したんですね。以前はやっぱり、他社の売れたフレーバーとか、そのへんってなんだかんだで、売上を稼ぐために作ってたんですけど、いまはもう完全に独自の路線の商品を展開していくっていうのは、社内の意識的にも確立されてる。
    石井 逆にだって、他社が追いかけてるもんね、湖池屋っぽくなってきたというか、同じようなことやったなとか。
    下阪 それに関しては「市場を拡げてくれてありがとう」と捉えてます。社長が言ってますね、真似される商品のほうがいいって。
    石井 なるほどね。


    小林 みんなが同じものになってしまう世界で、わたしたちはどうしていこうという気概ですか、という質問・・・めちゃくちゃ難しいですね。これはたぶん、自分たちの生き方とも連結する。
    石井 そうだと思います。
    下阪 自己投影の部分やからねブランディングって。
    石井 正しいものばかり、効率的なものばかりだと退屈だなって気持ちは、きっとみんなにある。僕もある。刺激がないとつまんないよねっていう生き方ではあるけども、でもさ、なんかさ、ほんとにそうなってるじゃん世の中が。え、こんなにみんな燃費重視するんだ!とか。もう、俺すらちょっとヤバいんです、もうこの流れに。
    下阪 行っちゃおうかなみたいな。
    石井 いや行ってます、ほぼ。ユニクロがいいって思ってるし、なんか、そんな時代ですよね。
    小浜 どっちもあっていいかなって。ユニクロもあっていいし、こだわりのブランドとか作家ものがあっていいし、うーん、なんかどっちもあるのがいいかなって。
    石井 それはもちろんそうだよね。だけどエッセンシャルな時代になってるというのはやっぱりあって。画一的なもののほうが主流になってるこの状況には、寂しさがあるよね。怖いなって思う。
    小林 メリハリ消費っていうはやり言葉がありますけど、まああの、一端を捉えてるとは思うんですよね。どうでもいいものはどうでもよく済ますし、本質的に自分を豊かにするものだけはめっちゃお金かける。このやり方ですよね。
    石井 そうですね。
    小林 でもかつては給料3ヶ月分頑張って貯めてなんとか車買うとか、そういうことだったわけですよね。そうまでして手に入れようというのは・・・
    下阪 そのころの車ってステータスなんやろな。
    小浜 CMもそういう作りでしたよね。
    石井 その車の在り方って、いま明らかに変わってきてるじゃないですか。
    下阪 変わりましたね。別に持ってることがすごいわけでもないし。何にお金をかけるかっていう選択肢が増えてるんすよね、ほんとね。

    KOIKEYA PRIDE.

    石井 そういう、見栄やステータスのためのものは要らない、っていう時代に来てるときに、湖池屋のあり方ってすごく面白いところに居て。変わってるから支持されてるってわけでもない気がして、なんだろね、そこの答えが。
    下阪 それはやっぱり生き方っていうか、思想みたいなとこじゃないですか。湖池屋の思想にお金を出している、みたいな人が結構居てくださる気がします。
    石井 湖池屋ファンっていうか。
    小林 なんか、ひとつ、合ってるかどうかわからないですけど、ちゃんと誇りをもってるなという感じが。
    下阪 そうそうそう、それはある。
    小林 内部事情を知ってると、小浜さんからしたら誇りもなにもあったもんじゃないって思うかもしれないけど。


    小林 でもさ、あるよね。
    小浜 一品一品、どうでもいいと思って出してないなっていう。
    下阪 そうそうそう。ほんとそう思う。
    小林 魂を売り渡してない感じ。
    石井 それはわかる。
    加藤 リニューアル結構しましたけど、本質は変えてなくて、現代向けに見せ方を変えてるだけで。カラムーチョもそうなんですけど、もともと「辛い」プラス食べたあとのエネルギーとか、そのへんってたぶんずーっとあったんですけど、そこを掘り返せなかった我々が居て、それを現代版にこう、見せ方を変えただけだったと思うんで、本質は変わってない、ブレないみたいなところが、もしかしたら支持していただいているのかなというのは思いますね。
    石井 だから結局「KOIKEYA PRIDE」なんですよね。プライドってところがすごく浸透してきてる感じがして、全商品に。いいなって思うのは、やっぱね、おいしいんですよ、いまの湖池屋ってどの商品も。これ別にゴマ擂りじゃないっすよ(笑)。明らかにおいしくて、なんだろな、マーケッターがマーケティングして作ったなっていう感じでもなくて、おいしくて楽しいもの作ってるんだろうなっていうのが伝わる気がして。なんかね、市場調査をもとにした商品開発も正しい手法のひとつではあるんだけど、そこがやっぱりね、すごい差が出てきてるような気がしますね。
    小林 さっきの社長の、よく似た商品が市場に増えていくみたいな話とかってのはまさに、マーケティング主導でものを作ると、必然的にそうなる。
    下阪 戦略なんやな、戦略商品みたいな。
    小林 それこそもういまAIがマーケティング出来ちゃいますからね。
    石井 最近どうかと思うのは、AIにデザインさせるプロジェクトをやってるじゃないですか。なんだろね、できるんだよ、そりゃ別に出来ますけどね・・・
    小浜 それをベンチャーとかがやるならまだわかりますけど、メーカーがやってしまうっていうのが、怖いんですよね。
    下阪 怖いよね、怖い。
    石井 もちろん僕らもパッケージ作るときに、ほぼAIみたいな思考で作る場合があるわけです。これはこういう味だからこの色で、こういうとこ目指してるからこんなテイストでって。それはやってることはAIっぽいんだけど、実はそのままだと全くうまくいかないことが多くて、そっから先にもういっこ実は、あのー、なんだろね、なにかを入れなきゃいけないんです。
    小林 ネジを一本抜くって感じじゃないですか?
    石井 抜くこともあるし、足してみることもある。余計なこと予想不可能なことをやってみないと、意外と突破できないことが多くて。だからAIの作業ってまだ、もちろん未来に向けてはそれすらも学習していけばいいとは思うんだけど。お菓子作りもたぶん同じじゃないですか?
    下阪 ユニークさというか、なんていうんですかね、楽しんでもらおうという気持ちですよね、それってなんか。
    石井 そう、そこがたぶんメーカーそれぞれの違いだと思うんですけど、きっとそういう気持ちでお菓子作りをされてると、パッケージもそういうふうになっていくし、やっぱ戦略的に作った商品に対するデザインってまた全然違う、理屈のとおったものになっていくし。そうっすね・・・湖池屋は、面白いっすよね。
    下阪 個性も豊かやしね~マーケティング部は。みんな違うし、それがまた面白いんですよね。
    加藤 確かになあ~。
    小林 社長の言う「異種格闘技」ってやつですよね。まさにその画一化に立ち向かえるのは、なるべく全く被ってない人同士をチーミングして、部署ももう入り乱れてやって、だから開発とマーケはずーっと喋ってるし、味とコンセプトは同時に考えるくらいになってるし。なんかもうすったもんだしたうえに作るっていうことに価値を感じてるというか、ある意味無駄な時間をかけまくっているというか。そういう感じが、巨大組織とか全自動プログラムとかに対抗する人間の誇りっていうのか、なんかそんな感じじゃないでしょうか。
    石井 そう思いますよ。マーケティングデータ主導の商品って、デザインのプロセスもシンプルなんですよ。だってすべて説明がついているから、そう難しくない。でもその分、どうなんだろうね、面白さという点では・・・
    下阪 全然違うんすね、会社によってね。
    石井 決して間違ってはない。ただ世の中の大多数がそっちになっている現状を見てると、ちょっとヤだなとは思うんですよ。
    下阪 そうそうそう、そうなんすよ。
    石井 良し悪しはないけど、好き嫌いはある。少数派としては無力感すら感じるというか、勝てないねこれっていう、諦めと葛藤しながらやってるんだけど、でもなんかちょっと信じたいじゃないですか。PBに絶対出来ない湖池屋のお菓子作りとか。
    新屋 マーケティングから出発するデザインの対極にあるのが湖池屋さんのパッケージかなと思うんですけど、どんなことをいちばん考えながら作ってるんですか?
    石井 うーん・・・あの、僕パッケージデザイナーじゃないんですよ、本職が。パッケージデザイナーではなくて、どっちかというと広告ベースで仕事をしてきたアートディレクターなんですよね。コミュニケーションを通じてブランディングをしてきた人なので、なんていうんだろうな、パッケージを、メディアとして捉えているというか、広告なんだろうなと。つまり店頭が広告になるっていう考え方でやってるってのがいちばん近くて、それはたぶんパッケージデザイナーとして出発してないから。なんていうんだろうね、その、湖池屋さんが考えてるコンセプトとかっていうのが、いちばんいい形でパッケージから発信されるように、心がけてはいるという感じですかね。

    いっしょにつくる。

    加藤 ちなみに、わたしたちからオリエンさせていただいて、先ほども粗削りみたいなお話ありましたけど・・・それをゲンさん的に、どうアイデアを拡げていくんですか?
    下阪 あ、気になる知りたい。
    小林 オリエン終わったあと、Zoomにみなさんだけ残るじゃないですか、あのあとどういう議論になって、じゃあ動いてみようかまで、どう進行するのかなあと。
    石井 悪口大会ですよ。
    加藤 やっぱりー!
    石井 なんだよいまのコンセプトよお、オイオイオイ面倒くせえなあとか言って。
    下阪 全然オッケーっす!
    石井 ウソウソ(笑)。でも、拡げていくってのは逆ですね。むしろみなさんがわーって拡げてくれたことを集約して、結局いちばん伝えたいコアとか、やりたいことってなんだろうね、ていうのを抽出する作業が僕の役割なんですよ。
    加藤 なるほど。
    石井 このみんなが作ろうとしているものの存在意義を、どこのツボを突いてあげれば世の中の人からも共感を得るかなっていう、それも要するにコミュニケーションですよね。だからあんまりパッケージデザインっていうふうに考えないで、これを世の中にコンビニから広告を出すとしたら、どこを伝えればいいんだろうね、っていうのを、整理する。「オリエン聞いてたあ?とりあえずやってみてー」みたいな感じでZoomをブチッと切るっていうこともあるんですけど。


    石井 彼らがデザイナーなりに自分たちで咀嚼したものをわーって形にするんですね。たぶんみなさんが目にしてるものの十倍くらいの数がボツ案も含めてあって、とにかくいろんなものが並ぶんですよ。で、並んだものを見たときに初めて発見することもある。あ、この色使ったときにこんな意外な感覚になるんだねとか。だったら、ここのいいところを伸ばして、こういうふうに方向性を作っていこうか、とか。俺は整理をする役なんですよ。どちらかというとだから・・・口だけなんだけどね俺いつも。あ~いいんじゃないの~みたいな。
    松野下 いや・・・
    石井 だから信頼できる手を動かす人たちが居て、とはいえほらデザインって、小浜さんも美大出身だからわかると思うけど、できる人じゃないと形にもならないじゃないですか。
    小浜 そうですね、うん。
    石井 形にすることがすごく大変だから、とりあえずなんか形にしてみてよっていうやり方をまず、するね。
    小林 へえ~意外と手からなんですね。
    石井 デザイナーたちは手から。で、俺は頭から。
    小林 そのあいだに本質をモヤモヤっと考えて、出てきたものを見てああ!みたいな。
    石井 点と点が繋がった!とかね。
    加藤 なるほどなるほど。
    石井 それはうまくいったときのパターンで、うまくいかないときは「なんだよコレ~いっこもあたらしくねえなあ(怒)」つって。
    松野下 よくあります。
    石井 だからねオリエンがはっきりしてないときは、俺投げがちだよね。よろしくーつってね。
    馬場 進行中のムーチョまさにその状態になってます。
    石井 そういまね、結構大変だと思う。
    小林 えーマジっすか。
    馬場 でも今回のコンセプトは旨そうだなって思いましたよ。
    石井 や、そうよ。いや~さすがポジティブだな~。
    小林 馬場さんの旨そうだなあはねえ、結構励みになりますよね。
    下阪 うんうん馬場さんの、シズル撮影のときにもよく聞きますよね。
    小林 旨そうですねえ~って。
    下阪 あれに勇気づけられるからね。
    石井 そうなの!?
    馬場 ただおなか減ってるだけかもしれないです(笑)。あとゲンさんは試作品を食べてからデザインを変えることもありますよね。
    石井 あ~そうだね。
    下阪 確かに味とセットですもんね、知覚品質と実際品質はね。
    新屋 味にも、ときどき、言いますもんね。
    石井 文句言うね。


    石井 でもやっぱデザインの一部ですよね。味もデザインでしょ、要するに。
    小林 そうですね。
    石井 そう考えると、別に僕はパッケージデザイナーっていう気分でやってるんじゃなくて、スナックというひとつのコンテンツを作るっていう延長でいくと、この味はないねとか、こういう味がいいんじゃないの?って。逆にデザインの中から見つかるときもあるんですよ。だからたまに勝手に味もプレゼンするんですけど。
    下阪 最高ですね。
    新屋 ゲンさんは、パッケージデザイナーっていうつもりで入ってないよって、それはこちらの一方的な思いですけど、みなさんにとってのネアンデルタールってどんな存在ですか?
    湖池屋 ほおーっ・・・
    石井 聞きたーい。
    湖池屋 ほおーっ・・・
    新屋 「デザインお願いしまーす」って感じでもないなとは思っていて。
    加藤 違いますねえ。
    小林 ちょっとねえ、どんな存在かは一旦置いといて、結構ゲンさんのことを怖がっているときはある。
    新屋 えーっ!
    下阪 そうなのお!?
    小林 馬場さんとか松野下さんから電話がかかってくるときも僕は若干ビビってるときはあります。
    馬場 いやいやいや。
    小林 すごい細かいところ詰めてくるんだなあとか。
    馬場 いやそんなつもりは・・・
    小林 でもゲンさんもわかんないときはストレートにわかんないって顔するし。
    石井 それはね、しますね。
    加藤 いや、そういうときって、俺らも自信ないんだよ。だからビビっちゃう。
    小林 あー、そうですね。だからね全部伝わっちゃうなあとか・・・ひとことで言うとなんだ、ツーカー?
    下阪 いやでもそういう感じよ。本音ベースで話せる仲間みたいな、それがいちばんあると思います。
    石井 「相談」できますもんね(笑)。でもね、コンサルって言い方が好きじゃないんですけど、なんだろう、相談に乗ること自体も責任をすごく持つので、デザインするよりもしかしたら相談のほうが、真剣に考えなきゃいけなかったりするから。
    下阪 なるほどなるほど。
    小林 だから「デザイン会社」じゃないってことですよね、まず。
    石井 そうですね。もちろんデザイン機能はあるしアウトプットはデザインなんですけど。
    小林 かといってコンサル業に相談に来てる、って感じでもないんですよね。なんて言うんだろうなあ。
    石井 なんて言うんですかねえ。
    小林 ・・・いっしょにつくるひと?


    加藤 なんでそんなライトな言い方すんの。
    石井 もうちょっとうまい言い方してほしいなあ。
    小林 すいませんいま、決め台詞が全然出てこなくて。でもそういうことじゃないですか。
    石井 そうそうそう。
    小林 同じ地平に居ますみたいな。
    石井 そうそれなんなんすかねえ、そういうのねえ。名付けてもらいたいねえ。駆け込み寺的な?
    小林 co-workerみたいな?うーん。
    石井 それちょっと宿題にしとくんで、教えてもらっていいっすか(笑)。なんかでもそんな感じの存在ってことですよね。
    下阪 ほんとそうっすね、なんでも言えます。
    小林 同じ砂場で一緒に同じ城つくってる人っていうか。そういう関係ができるってのは稀有ですよね。
    石井 ちょっと、お願いします、そこ売りなんで。
    小林 じゃあ、宿題考えます!
    石井 お願いします!今日はお忙しい中ありがとうございました!
     
     
    –– 貴重なお話がたくさん聞けて、このタイミングでいろいろと振り返りもできて。本当にいい機会でしたね!最後にゲンさんからひとことお願いします。

    CMなどの広告の力で流行が生まれていた時代もありました。でもいま重要なのは、モノ自体にどれだけの発信力と説得力があるか。そういうモノしか人を動かすことはできないんです。だからこそ湖池屋さんのようなメーカーと僕らが一緒になって考えることに意味があるし、メーカーの仕事、みなさんこそが “クリエイティブ” なんですと、声を大にして言いたい。
    引き続きよろしくお願いします!

  • NEANDERTAL CASE STUDY – VOL.1 湖池屋 – #2

    第2回 スペシャルゲスト!社長登場

    3回に渡ってお届けする特別シリーズの第2回。
    前回はカラムーチョ、すっぱムーチョのリニューアルを中心に、定番ブランドをリニューアルすることの難しさなどをお話ししました。
    第2回の今日は、まさかのスペシャルゲスト、佐藤章社長がご登場!トップは今回のリニューアルをどう見たのか?いまの時代にメーカーが果たすべき役割とは?若者たちへ愛あるダメ出し!メモを取る手が止まらない、濃厚濃密な30分となりました。

    ▼第1回はこちら
    http://neandertal.jp/journal/10994/

    <ご参加いただいた湖池屋マーケティング部の方々>
     ムーチョチーム
       加藤さん(課長)
       小林さん(ブランドリーダー)
       宮崎さん / 平野さん
     スコーンチーム
       下阪さん(課長代理)
       小浜さん / 田坂さん

     
    –– ここで佐藤社長が登場!実は社長と石井は何度も一緒にお仕事をしていて「章さん」「ゲンちゃん」と呼び合う仲です。

    石井 あっ、お久しぶりです!ご無沙汰してます!
    佐藤 今日なに~。
    石井 や、みなさんをちょっと、取材しに来たんです。
    佐藤 そお?久しぶりだねえ。いいじゃんこれ、新生ムーチョ。


    石井 ありがとうございます。
    佐藤 さすが。
    石井 いまそこらへんの裏話をしていて・・・ほら最初はあの、僕がやってるって内緒のご相談受けてて。
    佐藤 またろくなことしないねえ。
    加藤 いやいやいや。
    佐藤 まあだけどカッコよくなったよ。
    石井 ありがとうございます。
    佐藤 こうして現代的になってくれればさ、カラムーチョが再ブレイクするときの、ベースにはなってくれる気がするな。うん。まあだけど、よく思いついたなあ。
    石井 いや、これはだから、いまも話してたんですけど定番商品で35年売れてる商品だから、どこまで変えていいのか、何を変えないべきなのか。
    佐藤 だからお客さんがさ、どうしてほしいのかを、なんて言うんだろうなあ、サイレントマジョリティーの声を聞くっちゅうか。
    石井 元のパッケージに対するファンの支持は固くて、実は変えられない点も多かったですよね。かと言って守り過ぎてもユーザーは拡がらないし。
    佐藤 これまでに何度変えようとしてもさあ、調査でダメ、ダメって言われ続けてきたから。でも今回は調査聞かなくても見た瞬間に、これなら大丈夫なんじゃないのかなって感じはしたよ、正直に言うと。
    小林 「やられた!」って言ってましたね。
    佐藤 そんなこと言ったかなあ。

    新ムーチョ、いかがでしょうか。

    佐藤 これは、プレゼンしてもらったままなんにもしなかったよな、直すことがないっていうか。ブランドイメージとぴったり合ってたんじゃないですかね。
    石井 元気みたいなことをギュッと凝縮してる。
    佐藤 うん、だからこう、「チャージする食べものだ」っていうお客さんの裏の声と、やっぱりラテン気質というか、自走する気持ちみたいな。
    小林 踊り出しちゃう感じ。
    佐藤 そうそう、そういうのがうまく表現されたんで、ユーザーもこれならカッコいいとかいまっぽいとか思ってくれたと、信じてるんですけどね。
    石井 ありがとうございます。
    佐藤 次の課題としては、カラムーチョのコミュニケーションてどう考えるんだろうってのは実は僕の中にはあるけどね。カラムーチョって言ったら「ヒー」しかないわけじゃない。それ以外のコミュニケーションしても実はあまり効かない。だけど、そんなことはなくてさ、本当の現代的なコミュニケーションは、なにかあるはずなんだよ。
    石井 必ずしもコマーシャルではないような気もしますね、そこにあるのは。
    佐藤 うん、それもあるかもね。答えはまだわからないからさ、トライ&エラーになるのか、そのあたりが課題かなあ、今後のね。
    石井 そんなにいまコミュニケーションはやってないじゃないですか。
    佐藤 やってないね。
    石井 それなのに、カラムーチョの存在感をなんとなくみんながわかってるっていうのは、やっぱりすごいですよね。
    佐藤 褪せないんだよな〜。何故なんだろう。この答えがわかり、じゃあどうしようっていうアクションプランというかエグゼキューションができてくると、ほんとは強いよね。これに似てるものはなにかあんのかい?
    石井 存在としてですよね。お菓子じゃなくて、世の中にあるいろんなものの中で、カラムーチョ的なもの。
    佐藤 すっぱムーチョだって難しいブランドだよ。すっぱムーチョを嫌いって言う人は好きな人よりも多いのに、すっぱムーチョを大好きなファンだけで支えられてるっていう点では、これもまた稀有だしさ。
    石井 うんうん。
    佐藤 なんかね、すごいキワに居る気がするのよ。で、それがいいんだと。キワやオタクがセンターを張る時代ってよく言うでしょ。だから、センターに乗せる日がいつか来るって思ってるんだけどね、シニアブランドマネージャーとしては。
    石井 シニアブランドマネージャー(笑)。・・・みんな黙っちゃったじゃないですか。ここは議論が活発になる瞬間のはずなんだけどなあ。
    佐藤 なんで入って来ないの。
    石井 え、普段どんな感じで社員とはお話ししてるんですか?僕らには見えてこないじゃないですか。
    小林 いまおっしゃったような話をいつも侃侃諤諤と、やっています。週3回くらい社長室にお邪魔して、いろんなご相談をして。
    下阪 逆に社長が来てくださったりね。
    小林 マーケ部のあるフロアにふいに降りてきてくださったり、社員食堂でも今日もお隣で一緒にごはん食べましたし。
    佐藤 なんかつまんねえ話してんなあ。
    石井 いやおもしろいです(笑)。
    小林 そんな感じで、距離近くやっております。
    佐藤 まだまだもっと自分の意見があっていいと思うし。正直だって、僕らジジイよりもさ、若い子のほうがカラムーチョはわかってなきゃおかしいしさ。
    小林 みんなわかってる自負はあるよなっ。
    宮崎 はっ、はい。


    佐藤 辛口ブームは間違いなくこのカラムーチョから起きてるんだよね。このあとに辛口のビールが出て、キムチとか、辛いものを好んで食べるような習慣がついたのってそっからだからさ。いまやもう、韓国グルメとかいろいろ溢れてきてるけど、これからどういう展開を見せるのか、あるいはそのムーブメントを、湖池屋から起こしていかないといけないっていう自負を、持ってますけどね。

    エッセンシャルなものしか求められない時代に。

    石井 例えば同じポテトスナックで、じゃがいも心地とかと、ムーチョは結構真逆の存在じゃないですか。
    佐藤 そうね。
    石井 なんとなく、時代的にはああいう本質的なものを求めるのが主流になる気もしていて。そのときにカラムーチョの存在感ってすごく難しいというか、時代が求めているものと逆になっているような、その向かい風は感じるんです。炭酸飲料にも近いのかな。みーんな水を飲んでて、無糖の炭酸飲料にシフトしていってて、結構クセになるような、例えばコーラって今はちょっと世の中的には厳しいかもねっていうふうになっていってるときに、カラムーチョの存在意義はやっぱりすごく難しいですよね。
    佐藤 いまゲンちゃんが言ってたじゃがいも心地だとか、ものの本質を求めて、プリミティブなね、方向に戻っていくっていうときに、カラムーチョの役割はなんぞやと、こういう質問だろうけど。
    石井 うん。


    佐藤 さっきの飲料の話で例えると、みんなが水や無糖の炭酸飲料にシフトしているからには、当然各社がそういう商品を増やそうと考えるよね。でもそうすると結果なにが起きるかっていうと、市場が縮小してしまうんだよ。有甘飲料、無甘飲料っていうと、お金払って買うならやっぱり本来は水じゃなくて有甘飲料なんだけれども、その市場が縮小してくってことは大変なことなんだよ。
    石井 メーカーが自ら市場の縮小を招いてしまう。自分の首を締めているってことですね。
    佐藤 飲料の市場に限らず、似たような商品ばかり増えてきたなと横で見てて思うことは多いし。だから、僕らメーカーの使命はそうならないようにね、常にこう弓を引いてる状態で、ギリギリギリって、常にその臨極点まで弓を引き切る。対極から対極へ。なんて言うのかなあ、メリハリは必要なんじゃないかと。
    石井 うんうん。じゃがいも心地もあればカラムーチョもある。対極ですね。
    佐藤 ファッションでもそうだし、環境問題で電気自動車ばっかりにしようとしてるけど、ほんとにそれでいいのか。
    石井 最近は軽自動車人気もすごいですね。
    佐藤 そう、軽自動車になって、EVになって。各社DNAにしてた、自分たちらしさのシンボルみたいなスポーツカーの存在はどこ行っちゃうんだと。それは決して、自動車を楽しむって観点に立つと、いいことばかりではない。だからそのへんのところはメーカー側が考えなきゃいけない、っていう思いがあるけどね。


    石井 僕らも消費者としてコンビニに行くじゃないですか。そうするともうほぼいまPB(プライベートブランド)がずらっと並んでいて、問題はないんですよ別に、それで事足りるんだけど、ちょっとだけ寂しいっていうか。それって古いんですかね?
    佐藤 いや、それはもうまさしくノンブランド化してるわけだよね。アパレルもいま苦労している話をよくきくけど、なんでも無地のTシャツだけでいいんじゃないか、みたいなことと似たようなね、状態を引き起こしてたりするし、それは消費活動にとってはどうなんだろうと。
    石井 若い人たちって、もう車も軽で十分だしファッションも別に無地のTシャツがあればいいやみたいな、感じなんですかね?ここに居る若者はどうですか?
    小林 僕は若者でいいっすか?言わせてもらうと、「で」いいやじゃないですよね。
    宮崎 うんうん。
    小林 無印「が」いいと思って買ってるし、PBの中でもこのPB「が」いいと思ってるし、ダサいやつはダサいと思ってるから。
    石井 まあそうだよね、これ「が」いいということですね。
    小林 なんかその、画一的なもので特に違和感なく洗脳されたように暮らしてるという若者像を持たれているならば断固として違うし、むしろそれどころか、そういう社会だからこそ、自分を表現するものしか買いたくないとかって思ってる人もどんどん増えてるし、宮崎くんとかってまさにその代表例ですけど。
    宮崎 ぼ、僕ですか。


    佐藤 もっと反逆しないと。俺らの欲しいのはこんなんじゃないんだあ!って言って自己主張しないと、あるパイの中に収められていっちゃう感じがしてしょうがないなあ。
    石井 でもそれは「草食」みたいな言葉で片付けちゃうと、なんか本質を見失うような気がしていて。あの、最近の動きはほんとに面白いなって思うんですよ。だってみんな、下手すりゃ水でいいって言い出してるでしょ?僕も思ったりするんですよ、もう味要らないとか、お茶すら要らないみたいな。そうなってるときでも、「あ、でもさ、カラムーチョって無くなったらすごく寂しいじゃない?」とは思う。そこにはなんかきっと、存在意義はきっとあって、それをどういうふうに突けば、これがセンターに行くのかなっていう、それはすごく難しい課題。
    小林 水でいいとかって思うときあるんですか?
    石井 俺もう水よ、飲んでんの。
    小林 でも確かにジュース飲まないなみんな、周り見ても。たまーにコーラを飲みたくなるときってのはあるんだけど、でも本当にたまに。
    佐藤 それはねえ、果汁100%から、つぶつぶオレンジから、苦いものから、旬でおいしいものを楽しむだとか、いろーんなものがあったから、俺はあれが好きこれが好きとかさ。コーラはすげえ刺激があってカーッてくるとか、いや似てるけどジンジャーエールのほうがいいとかさ、いや俺はドクターペッパーだとかさ、っていうのが「好み」だったような気がするんだよね。それがいまやもうみんな「水系」「お茶系」でいいんじゃない?ってひとくくりに言われちゃってる気がしてさ。
    石井 する、すごくするそれは。
    佐藤 だろ?それは違うと言わないと。ブランドの多様さ多彩さじゃなくて、大きさだけを競う時代になっちゃってるんだよ。その中にお客さんが入れ込まれて、そこで飼い慣らされちゃってる感じがしてね。っていうのは古いオヤジの意見かもしれないけどね。もっとこう、暴れたり戦いまくる市場になってないと。いまはなにかひとつヒットしたら各社がみんな同じような商品を出すから。
    石井 そうですね。一見いろいろあるようでいて、逆に選択肢をなくしてる。
    佐藤 「ものの流出入」ってのはさ、昔はあったよ。先週の昨日なに飲んでた?っていうのをよく調べてみると、酒飲んでたと。でも今週のいまはジュース飲んでる、とか。違うジャンル、違うところからいろいろこう流出入があって、それで楽しめるみたいなところがあるんじゃないのかなと。ずっと水でずっとお茶だったら、2週間前も昨日も全部同じになっちゃうから刺激がなくなっちゃうんじゃないの?ねえ平野そんなことない?
    平野 や、そうですね。
    石井 ほんとですかあ?ほんとのこと言ったほうがいいよ。俺はちょうど真ん中にポジショニングしてるんで。
    佐藤 ばかやろう!真ん中じゃないだろう!
    石井 俺そんなに章さん側でもないのよ。いいとこにいるから。どっちもわかるよ。
    佐藤 なーに言ってんだよ。ゲンちゃんだってもう57、8になんだろ?
    石井 なってないっすよ!いま51ですよ。
    佐藤 あ、51。ははは!
    石井 57、8って・・・そうねえ~。あれ、章さんいまいくつですか?
    佐藤 俺62だよ。
    石井 あっ、俺初めて会ったときじゃあまだ50いってなかったんすね。
    佐藤 なに言ってんだよあんときはねえ、初めて会ったのは2005年だろ?だから15年前だから・・・47とか。
    石井 40代だったんすか!?あれで!?


    石井 おっかね~あの40代。怖っ。すごいっすね章さん全然変わってないですね。
    佐藤 変わってないだろぉ。
    石井 そうかあ、40代だったのかあ。
    佐藤 とにかく僕らの若いときは、あたらしいカテゴリーを作ろうとか、いままであるものなんてクソ食らえと言って対抗勢力を作るのが若者なんだと。
    石井 でも俺はこっちの味方でもあるから。
    佐藤 いまなに人気投票やってんの!?


    石井 でもほら、いまやものがあり過ぎるっていうか、その対抗軸ももう出尽くしちゃってる感じもしなくもないんですよね。
    小林 まだないなら俺が作る!っていう時代のやり方とは違う反抗の仕方をしてると思いますね。ミクスチャーの時代ですいまは。あっちとこっちとこっちのやつを組み合わせるとまた全然違うのになるってことを延々と実験して、創造的破壊を繰り返してくっていうのがこれからだし・・・
    石井 君らのやり方でしょ、いや良いんじゃないかなあと思うよ。ほら、おっさんたちの時代は、基本的にカウンターを当てればいいっていう結構単純なところがあったじゃないですか。でもいまはカウンターの当てどころがないんだもんね。
    佐藤 まあね、なるほど。うまいこと言って中和するね。
    小林 カウンターじゃなくて、ミクスチャーして全然違うものにするっていうポストモダン的な感じだと思うんですけど、それがなんか、ありものでごちゃごちゃやってるっていうふうに上の世代には見えちゃうのかもしれない。
    佐藤 いや、カウンターでもミクスチャーでもなんでもいいんだよ。とにかく自分たちの存在を示さないと。
    石井 うんうん。それは普遍だからね。
    佐藤 自分たちの時代の寵児をつくらないといけない。
    小林 それは思います。なんか、発信力というか、本当はしたいけど、なんか、燻ってんな俺たちって。
    佐藤 こんな、こんな自由に商品開発してもいいって言われてんのにさあ、それが出てこないってのはさあ、マズいよなあ。
    小林 なんか・・・だんだん説教みたいになって・・・


    石井 カウンターじゃない作戦を考えればいいんだよお。ほんとそうだと思うよ。俺が全く意味がわからない売り方とかでもいい。なんかそれで火が点いたって言われたら負けを認めるし、俺たちが・・・いや俺は章さん側ってわけでもないけど、俺らが理解できるようなものじゃダメなんじゃないかなって気もするんだよね。でもね~うちの社員もそうなんですけど、金は出すから好きなことやれと、言うとねえ、できないんですよ。
    佐藤 そうだよね。だから「ダメ!」って言ってたほうがいいんじゃないの?(笑)
    石井 章さんはたまにはコンセプターと組んでやってみようとは思わないですか?
    佐藤 うーん、ないね。いっつも起点になるのはさ、ゲンちゃんとかさ、アートディレクターからになっちゃうから。どうしても俺の発想が。
    石井 はい、はい。
    佐藤 コンセプターからってことはないんだよ、それは俺は自分で考えたいから。コンセプトを作って「おーいゲンちゃーん」になっちゃうからさ。コンセプトワークはできちゃうからな、必要ないんだよね。あんな話こんな話を壁打ちをしながらさ、「とにかく一枚画で作ってみてよ」みたいな。そうすると「まーた始まったよ」ってね(笑)。まあだけど、その「頼むよ!」っていうのの頼み手が、俺じゃなくて小林がカラムーチョでって門を叩いたら、やっぱできてきちゃうっていうのはすごいとこだね。昔のよさと、若者たちの気質をうまく繋いでる感じっていう。うまくまとまってるねえこれ。
    石井 ありがとうございます!
    佐藤 そういうことだろ!
    石井 そういうことです。それが欲しかったっす。
    佐藤 そうだろ~やっと出たよこれ~。
    石井 また仕事増えちゃうな〜。
    佐藤 そういうことを言ってほしかったと。OK?もういい?じゃ、落ち着いたらメシでも行こうよ!
    石井 ぜひぜひ!ありがとうございました!
     
     
    –– 「自分たちの時代の寵児をつくる」ずしりと重い言葉でした。送り出して安心してちゃダメだよ、ムーチョブランドはこれからが勝負だよ、と発破をかけられた思いです。
    第3回はスコーンの話、マーケティング部のこれから、湖池屋さんからの逆取材など、続きます。
     

     >>> 第3回「KOIKEYA PRIDE」
  • NEANDERTAL CASE STUDY – VOL.1 湖池屋 – #1

    第1回 定番リニューアルの重さ難しさ

    2020年11月 湖池屋を代表するスナックブランドのひとつである「ムーチョ」シリーズがフルリニューアルを行いました。ネアンデルタールではトータルブランディングとパッケージデザインを担当しております。
    そもそも湖池屋さんとネアンデルタールとのお付き合いは2018年春に始動したスコーンのプロジェクトに遡るわけですが、いつも目の前の商品に必死で向かい合う日々。そういえばこれまでゆっくりお話しする機会もなかった・・・ということで、リニューアルにかこつけて取材のお時間をいただいてしまいました!
    苦労話に裏話、果ては日ごろの鬱憤も?湖池屋さんの全てを引き出すことはできたのか!?
    本日から3回に渡ってお届け致します。

    <ご参加いただいた湖池屋マーケティング部の方々>
     野間さん(次長)
     ムーチョチーム
       加藤さん(課長)
       小林さん(ブランドリーダー)
       宮崎さん / 平野さん
     スコーンチーム
       下阪さん(課長代理)
       小浜さん / 田坂さん

     
    –– 取材にお邪魔したのは11月上旬のある日。なんとまさにこの日、新生ムーチョの完成品が手元に届いたのでした!出来立てほやほやのパッケージを囲んで、一同高揚感に包まれます。


    野間 新ムーチョすごいカッコよくないですか!
    石井 いやー、ありがとうございます。
    加藤 ついさっき届いたんです。
    野間 全部揃えて並べてみて、めちゃめちゃいいねって言って。
    石井 僕らも現物いま初めて見て。すごい迫力ありますよね。
    小林 いよいよ発売ですね。
    加藤 ここまで長かったな〜。
    石井 ここらへんの苦労話もいっぱいあってね。


    加藤 そうですよね。
    石井 そうなんですよ。
    野間 なんかすごい、生き返った、生まれ変わった感じがしています。
    石井 そうですね。昔からのファンも裏切ってない感じがすごくいいですよね。
    野間 いちばん最初に、カラムーチョを生まれ変わらせてもらうんだったら本当はゲンさんとこに行きたいんだよねってずっとチーム内で言っていて。
    石井 そうだったんですね。
    野間 そうなんですよ。で、実際あの、上市も未定の段階で失礼ながらちょっと一回お試しで・・・ってご相談にお伺いしたわけですけど。
    石井 悩みましたよ〜でも~。
    加藤 無理なオーダーしましたよね、始め。
    石井 そう。「相談」ってのがいちばんズルくて。ズルい頼みかたするなあ~って思ってさあ。


    野間 ほんとでも、多分これ頼んでなかったら今回のリニューアルはなかったと思うし、営業もすごいよくなったって言ってくれてますし。このパッケージを見て「販売コンクールもしよう!」って、流通を巻き込んで売り場を大きく作ったりも、営業側がね、発信してくれたんです。
    石井 それ、うれしいですよね。
    小林 現場がとにかく味方してくれてますね、今回は。普通何かを変えるとアレルギー反応が出るじゃないですか。それが全然ない。
    野間 みんなが思ってた元のカラムーチョのいいところは残してもらいつつ、さらに進化した感じがちゃんと伝わったんだなって感じました。デザインから滲み出てくるわたしたちの思いみたいなものをすごく表現していただいた。
    石井 これもう序盤にして今日の大事なとこすべて言っていただいたかも・・・
    野間 書いといてくださいね!(笑)
    下阪 もうわたしたち居なくても全部野間さんが。
    石井 まとまっちゃったねえ。帰るか!これで。
    下阪 終わりですか!?
    石井 もうだいぶ褒められちゃったからなあ。
    野間 スコーンもね、今年のリニューアルでもっとよくなったのもあり、湖池屋全体がすごく進化してきた感じがね。
    石井 ムーチョもスコーンも、定番商品って実はすごく難しくて、あたらしいコンセプトの商品とかのほうがある意味やりやすいというか、エッジが立てやすいんですよ。ほんとにだから「相談」ってなんだよ~っていうその思いでいっぱいだったね。
    野間 相談にしては重い・・・
    新屋 去年のクリスマスイブの夜に、加藤さんから遠慮がちなメールが届きまして。
    石井 あ、クリスマスイブだったっけ?
    下阪 クリスマスプレゼントみたいなね。
    石井 そんで年末も押し迫る中、なんか相談があるって言ってますけど・・・みたいな。
    下阪 すんごい相談ですね。
    小林 いま遡ると確かに、クリスマスイブの夜8時に加藤さんからメールをお送りしてて。
    加藤 え~イブなうえに夜8時!?ヤバいねそれ。
    野間 サンタだ!年末年始も休むな風な!?
    下阪 冬休み中も考えてくれよみたいな。
    野間 そっか12月だったのかあ。約一年間、そっか。
    加藤 初回の打ち合わせでお会いしたのが1月でしたね。

    カラムーチョの「本質」をアップデートする。

    石井 ムーチョは僕のところに話が来るまでにも、チーム内で既にいろんな方向性を試されていたし、しかも定番品で、全く変えちゃうのもどうなんだろう?みたいなことも考えながら。あれねえ、プレゼンどれぐらいにしたんだっけ?
    新屋 ひとまず期限を切らずに、ちょっとお時間くださいってお願いして。見えてきたらご連絡しますっていう形で・・・
    石井 そういう仕事もすごいよね!見えてきたらご連絡くださいって。
    下阪 それ面白いっすね。
    石井 初回のご提案まで2ヶ月近くかかっているので、通常の案件よりはかなり長く考える時間をいただいたわけですけど、待ってるあいだはどんな感じだったんですか?
    加藤 リニューアルすることが必須で決まっていたわけじゃなかったので、本当にいいものができて、上り詰められたらやりたい、っていうスタンスだったんですよ。
    野間 しかも、わたしたちはいろんな商品企画をスタートさせるとき、必ず佐藤(佐藤章 氏/湖池屋 代表取締役社長)と握ってから進めるんですけど、ムーチョに関してはこっそり進めたんです。
    加藤 そうそうそう。
    下阪 それは恐ろしい。
    野間 で、最初にご提案いただいたときに「すごくいいのできてる!」って思えたので、こそっとゲンさんの名前を伏せて見せたら、こりゃいいじゃないかってなって。
    石井 おお~。 劇的ですねそれ。
    小林 で、実はゲンさんなんですけどってタネ明かししたら「ああ~」って。
    石井 その「ああ~」はなんなんですか!?どういう「ああ~」なの??
    加藤 「やられた~」って言っていましたね。
    小林 「やられたわ~」って。
    石井 それいいねえ~。
    野間 わたしたちも佐藤に勝ったなっていう感じでした(笑)。
    石井 しかもプレゼンしたのは一案だけだったんですよね。
    加藤 そうですそうです、一案のみを。
    石井 これでダメだったらちょっともう考えられない、って言って。それぐらい実は結構煮詰めてご提案しました。「カラムーチョの本質ってなあに?」みたいなところを、毎日喫茶店行って、ずーっと、考えるんですよね。本質を突き詰めるってやっぱりすごく難しい作業なので。単純に現代化するっていうことだけじゃなくて、カラムーチョのいちばん支持されてる理由の根っこのとこまで突き詰めないと、答えが絶対出てこないブランドだから、それに実はすごく時間がかかった。デザイン自体はぶっちゃけて言うと・・・ポコッてできたんだよな?
    松野下 そうですね。


    野間 最初に「エキサイティング」っていうキーワードを出してくださった。あれがすごい、わたしたちがずっと言葉にしたかったけどできなかったことが現されたって感じがしたよね。
    加藤 それまで元気とか、パワーとか言ってたんですけど・・・
    野間 キーワードが最初にあって、「それをデザインで表すとこうなんです」って出してくださったのが、すごい印象的だった!
    小林 現代人がなぜ辛いものや酸っぱいものを欲するのか。それは気分をスイッチしてくれて、元気をくれる存在なんだと。初回のご提案の時点で、ほぼいまの形ができあがってましたね。
    石井 元のパッケージにもギザギザはあったんですよね。それをギュッとシンボライズして真ん中に置いて、そこにロゴを置くっていうところが発見できたら、もうあとは早かった。
    小林 なんか、飾り立てるんじゃなくて、大事な要素っていうか、一択に絞ってるっていうか。前はもう、ごちゃごちゃごちゃって、たのしそうな感じっていうのはいろいろ表現しているけど、一方でパワーの炎も出してて、刺激も表現して、どれにしようか決めかねてるようなところがあったものを、これはエネルギーなんだ!バンッ!みたいな。全集中してくれたっていうか。
    小浜 全集中!流行りの。
    野間 しかもあの、我々が悩んでいたおばあちゃんも、いい感じにね。
    小林 ここね、実は結構検証しましたよね。
    石井 最初はヒーおばあちゃんを線画にしてご提案してたんですよね。
    小林 僕らとしてはもう、このカッコいいパッケージには居なくてもいいじゃんくらいに思ってたんです。だけど調査にかけてみるとやっぱり居てほしいと言われる。
    石井 そうですよねえ、おばあちゃんデカいですよね。
    小林 そしたらうまいこと、全体を崩さずにワッペンにしてくださって。

    多様なブランド展開を受け止められるフォーマットを作る。

    石井 ひとつすごく悩んだのは、ムーチョってすごくおっきなブランドなので、いろんな商品、いろんなフレーバーを展開していくじゃないですか。それの、いちばんど真ん中を作るっていうことは、本当にコンセプトがはっきりした求心力を持っていないと、展開したときにしっちゃかめっちゃかになるんですよね。「ただいろんなことやってるだけ」っていうブランドにならないように、すごく気をつけて。
    加藤 なるほどなるほど。
    石井 最初のお題はとりあえずカラムーチョの2品だけだったんですけど、すっぱムーチョになったらどうなるんだとか、海苔カラムーチョになったときに成立すんのかなあとかっていうことも考えながらやっていったときに、あれですよね「ムーチョ」のロゴの形を残したんですよね。
    加藤 そうですね、最終的に全フレーバー一緒の書体で。
    石井 「ムーチョ」のロゴは統一してプラットホームとして残すっていうやり方を、それは僕が発見したっていうよりも、みなさんとブラッシュアップしていく中で段々とそうなっていったっていうのもあって、そこはすごく共同作業としてうまくいったんですよね、結果的に。
    小林 それも非常に長年の悩みであったんです。カラムーチョとすっぱムーチョは、買っている層とかユーザーも全然違っていて、辛いもの好きと酸っぱいもの好きは別に被ってるわけでもなく、なのに同じブランドで。なんかその、異質なものを両方抱えながら「ムーチョ」って言ってるところがあって、デザインもそう簡単には合わせられないよなっていう気持ちが強かったんですね。だから、すっぱムーチョももっとカラムーチョ寄りのデザインにする?みたいな話になったときに、本当にそれですっぱムーチョファンの人たちは大丈夫だろうかとか、すごい迷いもあった中で、ちゃんとユーザーが喜ぶ状態で、並べると「あ、兄弟姉妹なんだな」って思える、そのバランス感を最後まで検証いただいたっていうのは大きかったです。
    石井 ここ苦労しましたけどね~すっぱはね~。
    加藤 何回もやっていただきましたよね。
    小林 すっぱのほうが三倍くらい苦労した感じしますね。
    石井 最初は元のデザインから結構変えたプレゼンを・・・
    小林 もっと背景も白っぽくしてましたよね、すっきり感を出すために。
    野間 グリーンとかブルーを取り入れたりして。
    小林 途中で調査にかけたものとしては、すっきり感をすごく強調したり、ロゴを最大限カラムーチョっぽくしていただいたり、反対に繊細な明朝も試したり。


    石井 確かね加藤さんから、やっぱり「エキサイティング」とか「爽快」みたいなことを、きちんと残したいっていう話をいただいて。それでこのロゴを結構変えたんですよね、この「す」を。その時点では元のデザインにかなり近い、丸くて可愛い大きい「す」にしてたんだけど、「爽快」っていう価値を、ベネフィットをちゃんと現したいっていうお話をいただいて、それで最後にバンッてデザインが決まっていった。
    野間 結果として元々のユーザーの方も喜ぶ方向になりつつ、あたらしいユーザーも入ってきたり、しばらく離れていた方にもう一度気づいてもらうきっかけになれる感じがすごいしますよね。
    小林 そうそう好きだったんだよこれ!みたいな。
    下阪 店頭では絶対映えますよ。
    野間 これかなり生まれ変わると思うんだよなあ。本当に楽しみ。

    定番リニューアルのプレッシャーに泣く。

    石井 カラムーチョは35周年ですよね。この歴史はやっぱりほんとに重くて。
    下阪 ゲンさんでも重いって!
    石井 いや重いですよ!スコーンも相当重かったけど、カラムーチョってめちゃくちゃファンが居るし、なーんでお前変えたの!みたいに炎上したらどうしようとか。
    野間 実はカラムーチョのリニューアルプロジェクトはここ3年くらいのあいだいろんな方向性を行ったり来たりしてたんです。やっぱりユーザーの方の声は無視できなくって、調査にかけては「前のほうがよかった」って言われるのが続いていたんですけど。でもこの新パッケージは、みんな、なんの異存もなく「こっちがいい!」って。
    石井 でもたぶん、パッと見は変わったことに気づかない人も多いと思うんです。
    野間 あ、わかります。色合いとか含めて、なんとなくで把握している人ですよね。
    石井 うん、そういう人は普通に買うような気がしていて、それが実はいいなと。違和感がいつの間にかなくなっているっていうのが、多分着地どころなんだろうなって。
    小林 イメチェンしたの気づかれてないけどいつの間にか高感度増してる!みたいな感じですね。
    野間 小林くんみたいだな!
    下阪 今日髪の毛セットするの忘れたん?
    野間 えっ!忘れたのお?今日重要なときなのに~。
    小林 いやいや、段ボール運んでたらちょっと、崩れちゃって・・・
    下阪 ワックス貸そか?
    小林 いいっすいいっす(笑)。

    石井、クライアントにダメ出し!?

    石井 でもね、湖池屋さんの仕事はね、なんかオリエンが面白いんですよ。
    湖池屋 ??
    石井 うん、デザインのオリエンっていうよりは、その商品の存在意義とか、自分たちがこんなものがいいなっていうことが、意外と剥き出しでやってくるんで・・・
    小浜 それ褒めてないですよね。
    石井 最初聞いたときは、毎回「ぇえ!?」って思うんですけど。
    小林 そつがない、の真逆みたいなやつですね。
    小浜 それはダメダメってことなんじゃ・・・
    石井 クライアントによっては、もう答え出てるじゃんっていうか、これだったら素直にこのまま作ればいいですね、っていうようなオリエンもたまにあるんですよ。
    野間 なるほどなるほど。
    石井 それが良い悪いではなく、湖池屋さんの粗削りっぷりは・・・ヤバいです。


    野間 すっ、すいません。
    下阪 すすすすすいません。
    石井 その分ね、原石がデカかったりするんで、削っても削ってもなくならない強いものが出来る場合がある。・・・ないときもあります。
    小浜 目を合わせられない。
    小林 でもふざけてるようで本気だし、とにかくやりたいという熱量は常にあるんですけど、その背景の悩みとかも全部一緒にオリエンしちゃうから。こうしたいんだけどこういう悩みもあります、でもこっちはダメです、でもこうしてください。みたいな・・・
    石井 はいはいはい。
    小林 矛盾してるままをぶつけているという。自覚はあるんですよ。
    石井 でもやりたい熱量ってのがすごい大事で、それがないままのオリエンも他では結構あって。形はきれいなんだけど、結局あなたそんなにやりたくないでしょ?みたいな気になるようなのもある。その点湖池屋さんの熱量はねえ、すごいっすよ暑苦しいほどの。特に若い人たち。
    下阪 猪突猛進やからねえ、真っ直ぐしか見えへんからね。
    石井 なんかだって、このあいだも青木さんから届いた資料に「沼」とかって。なんだよ沼って~オリエンになってね〜よ〜みたいなさ、ときもあるんですけど、ああでももしかしたら、この人がこの資料写真を持ってきたことにはなにかの理由がきっとあって、こういうことをやったほうがいいのかなっていう、翻訳をしながらやるっていう。まあ大変な仕事なんですよね~(笑)。


    野間 あ、いま佐藤がちょっと時間あるって言うんで・・・
    石井 ちょ、待ってください。
    野間 呼んじゃった!30分くらい時間あるらしいです。
    石井 いや、長いな~ヤバいなこれ。
    下阪 なんかのオリエン始まっちゃったりして。
    加藤 社長これ、ふらっとくる感じ?
    下阪 ふらっと来ます。ふらっと来て、次のムーチョの話するんじゃないですか?
    加藤 それを言うならスコーンでしょ?
    下阪 いやいや・・・
     
     
    –– まさかのスペシャルゲスト、佐藤社長登場。トップは今回のリニューアルをどう見たのでしょうか!?第2回に続きます。
     

     >>> 第2回「スペシャルゲスト!社長登場」
  • あけましておめでとうございます

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