石見美和のこと

往くものは追わず 来るものは拒まず
早く自分もこういう
悟りの境地に達したいと思うのだが
なかなかうまくいかない。
辞めていく人間に対して
つい未練がましく引き止めてみたりするし
余計なことを考えはじめると悶々として
とてもじゃないが気持ちよく送り出す心境になんてなれないものだ
石見美和はモダンアートやグラフィックデザインに造詣が深く
ひとりで黙々と作業にむかうタイプのデザイナーだったので
アート色の強い仕事を頼むことが多かった。
スパイラルペーパーやZINE、福里真一のブックデザインなど
外連味がない、清潔感のあるデザインを得意とした。
休日、だれもいないオフィスでよくひとりで作業をしていた。
仕事はみんなのものなんだから、声をかけて手伝ってもらえよ
と言ったが、一切聞く耳をもたなかった
801-724x1024
41
113-1024x685
仕事は放っておいても自分で進めてくれたし
所謂手のかからない、いい子だったと思う。
こちらのオーダーには忠実に、完璧に仕上げていてくれた
ただ、予定調和に陥ってしまうことも多く
そんな時、もっとぶっこわしたり、裏切ってみたらどう?
などとアドバイスしてみるのだが
とたんに不安そうにおびえた目をして落ち着かない様子になった。
掟破りとかアドリブには滅法弱いタイプだった。
石見とはまだ「広告」の仕事をしていない。
厳密に言えば誰かのアシスタントとして手伝ってくれてはいたが
一対一で向き合って仕事をするのはこれからのはずだった。
広告には、石見の得意なグラフィックデザインとは
少し違う領域の能力が必要なので、それを経験したほうがいいと思っていた。
清潔で綺麗事ばかりではない、どちらかといえば刹那的で暴力的で混沌とした野蛮な世界だ。
見た目の派手さとは逆の地味な作業、折衝に次ぐ折衝、妥協、不条理。
お世辞にもスマートな仕事とはいいにくい。
でも、そんな混乱を乗り越えた先にあるよろこびを
一度でいいから一緒に共有しておきたかったなと思う。
それだけが心残りだ。
あと一年いてくれれば。いや、もう少しだけ長くいてくれたら。
と今日になっても未練たらたらたらば蟹だ。
利発で聡明で機転が利いて、こうと決めたら譲らない。
わがままを言うところを見たことがないし
常に他人をたてて自分は一歩下がる
奥ゆかしさが服を来たような人だった
そういうところは素晴らしい性質だけど
時折、息苦しくないのか少しだけ心配になることがある
欠点とか、下手さとか、ユルさとか、不完全さとか、
無責任とか、ズボラとか、自分勝手とか、気まぐれとか
石見が嫌悪していたそういうことすべてを
いつか石見自身が許せるようになるといいなと思う
その生真面目さで自分自身を追いつめることのないよう
心から願う
石井 原
08
ネアンデルタール感謝祭2013にて おもちの格好をする石見