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インディペンデンスデイ
先日デザイナーのOBたちと小淵沢へキャンプに行った。8年前に転職した女性と、今もコラボレーターとしてよく仕事をしている男性。2人ともとっくに中年の仲間入りを果たして1人は家まで買ったらしい。時が経つのは本当にはやい。テントを立ち上げて焚き火を起こし夜になるまでたくさん話をした。撤収までデザイナーらしくテキパキと、気心知れた仲間同士のプレゼン作業みたいで楽しかった。帰りにキースヘリング美術館へ行き温泉に入った。社長と社員の関係では接待みたいに気を使わせてしまうのでこうはいかない。
会社を立ち上げてから十数人のデザイナーの自立を見送った。かつて自分がそうだったように辞める理由なんてあってないようなもので、あるのは自分自身で人生の舵を取りたいという個人の極めて健全な欲求だけだ。久しぶりに彼らと再会して、互いに何一つわだかまりのない現在のフラットな関係性が宝物のようなものだと思えた。
馬場という男が面接にやって来たのは7年前。若い頃の笑福亭鶴瓶のようなモシャモシャの頭に原始人をイメージしたのか骨つき肉の形をしたバッグを下げていた。いつもだったら絶対に採用しないタイプのデザイナーだった。主力のデザイナーたちが一気に卒業した時期でだいぶ気弱になっていたのだと思う。半ば投げやりな気持ちで試験的に採用してみたというのが正直なところだ。
大らかな人柄によく似た大らかなデザイン。最初は大らかすぎてどう扱っていいかわからなかったが、時代が変わるにつれてそのゆるやかな感性がいつの間にか心地よくなっていた。自分の許容度とか感覚の領域を拡げてくれたサイコーに素敵なデザイナーだ。そんな馬場もついに独り立ちする。といってもコラボレーターとして明日からも今まで通り仕事を継続するので感傷的な気分にはならない。屋号は「バーバリアン」だそうで、野蛮なところがなんかネアンデルタールっぽいけど資本関係のある子会社ではなく立派な独り立ちだ。
ネアンデルタールはこれから正社員制度という雇用形態の会社組織から自立(自律ではない)分散型のプラットフォームになる。独立した個人、あるいは副業が認められている個人と契約を結び、プロジェクトベースで仕事をする。すでに数年前から少しづつその形態に移行しながら仕事をすすめているので今日から特別に何かが変わるわけではない。
何年か前に、一般からデザイナーを募って登録マネジメント料をとるというスキームに乗らないかという提案をしに来た会社もあったが丁重にお断りしたうえで玄関に塩をまいた。黙ってても相当の登録料が入りますよ、という誘いには正直ぐらっときたけど。確かに効率的に稼ぐだけならそれもありかも知れない。今流行りのなんとかエコノミーってそういうことなのかもしれない。そのやり方を選択しなかったのはいくら高いスキルを持ったデザイナーが集合してようが、知らん人間との仕事からは社風を反映したデザインがうまれにくいと考えたからだ。オフィスを同じくしなくても会社の風土は根付く。信じられる人間とのゆるやかなネットワークがあれば、ネアンデルタールらしい仕事にすることはできる。それは12年間インディペンデントを貫いてやってきたうちの会社のいちばん大きな資産だ。
ネアンデルタール 石井 原