NEANDERTAL CASE STUDY – VOL.1 湖池屋 – #1

第1回 定番リニューアルの重さ難しさ

2020年11月 湖池屋を代表するスナックブランドのひとつである「ムーチョ」シリーズがフルリニューアルを行いました。ネアンデルタールではトータルブランディングとパッケージデザインを担当しております。
そもそも湖池屋さんとネアンデルタールとのお付き合いは2018年春に始動したスコーンのプロジェクトに遡るわけですが、いつも目の前の商品に必死で向かい合う日々。そういえばこれまでゆっくりお話しする機会もなかった・・・ということで、リニューアルにかこつけて取材のお時間をいただいてしまいました!
苦労話に裏話、果ては日ごろの鬱憤も?湖池屋さんの全てを引き出すことはできたのか!?
本日から3回に渡ってお届け致します。

<ご参加いただいた湖池屋マーケティング部の方々>
 野間さん(次長)
 ムーチョチーム
   加藤さん(課長)
   小林さん(ブランドリーダー)
   宮崎さん / 平野さん
 スコーンチーム
   下阪さん(課長代理)
   小浜さん / 田坂さん

 
–– 取材にお邪魔したのは11月上旬のある日。なんとまさにこの日、新生ムーチョの完成品が手元に届いたのでした!出来立てほやほやのパッケージを囲んで、一同高揚感に包まれます。


野間 新ムーチョすごいカッコよくないですか!
石井 いやー、ありがとうございます。
加藤 ついさっき届いたんです。
野間 全部揃えて並べてみて、めちゃめちゃいいねって言って。
石井 僕らも現物いま初めて見て。すごい迫力ありますよね。
小林 いよいよ発売ですね。
加藤 ここまで長かったな〜。
石井 ここらへんの苦労話もいっぱいあってね。


加藤 そうですよね。
石井 そうなんですよ。
野間 なんかすごい、生き返った、生まれ変わった感じがしています。
石井 そうですね。昔からのファンも裏切ってない感じがすごくいいですよね。
野間 いちばん最初に、カラムーチョを生まれ変わらせてもらうんだったら本当はゲンさんとこに行きたいんだよねってずっとチーム内で言っていて。
石井 そうだったんですね。
野間 そうなんですよ。で、実際あの、上市も未定の段階で失礼ながらちょっと一回お試しで・・・ってご相談にお伺いしたわけですけど。
石井 悩みましたよ〜でも~。
加藤 無理なオーダーしましたよね、始め。
石井 そう。「相談」ってのがいちばんズルくて。ズルい頼みかたするなあ~って思ってさあ。


野間 ほんとでも、多分これ頼んでなかったら今回のリニューアルはなかったと思うし、営業もすごいよくなったって言ってくれてますし。このパッケージを見て「販売コンクールもしよう!」って、流通を巻き込んで売り場を大きく作ったりも、営業側がね、発信してくれたんです。
石井 それ、うれしいですよね。
小林 現場がとにかく味方してくれてますね、今回は。普通何かを変えるとアレルギー反応が出るじゃないですか。それが全然ない。
野間 みんなが思ってた元のカラムーチョのいいところは残してもらいつつ、さらに進化した感じがちゃんと伝わったんだなって感じました。デザインから滲み出てくるわたしたちの思いみたいなものをすごく表現していただいた。
石井 これもう序盤にして今日の大事なとこすべて言っていただいたかも・・・
野間 書いといてくださいね!(笑)
下阪 もうわたしたち居なくても全部野間さんが。
石井 まとまっちゃったねえ。帰るか!これで。
下阪 終わりですか!?
石井 もうだいぶ褒められちゃったからなあ。
野間 スコーンもね、今年のリニューアルでもっとよくなったのもあり、湖池屋全体がすごく進化してきた感じがね。
石井 ムーチョもスコーンも、定番商品って実はすごく難しくて、あたらしいコンセプトの商品とかのほうがある意味やりやすいというか、エッジが立てやすいんですよ。ほんとにだから「相談」ってなんだよ~っていうその思いでいっぱいだったね。
野間 相談にしては重い・・・
新屋 去年のクリスマスイブの夜に、加藤さんから遠慮がちなメールが届きまして。
石井 あ、クリスマスイブだったっけ?
下阪 クリスマスプレゼントみたいなね。
石井 そんで年末も押し迫る中、なんか相談があるって言ってますけど・・・みたいな。
下阪 すんごい相談ですね。
小林 いま遡ると確かに、クリスマスイブの夜8時に加藤さんからメールをお送りしてて。
加藤 え~イブなうえに夜8時!?ヤバいねそれ。
野間 サンタだ!年末年始も休むな風な!?
下阪 冬休み中も考えてくれよみたいな。
野間 そっか12月だったのかあ。約一年間、そっか。
加藤 初回の打ち合わせでお会いしたのが1月でしたね。

カラムーチョの「本質」をアップデートする。

石井 ムーチョは僕のところに話が来るまでにも、チーム内で既にいろんな方向性を試されていたし、しかも定番品で、全く変えちゃうのもどうなんだろう?みたいなことも考えながら。あれねえ、プレゼンどれぐらいにしたんだっけ?
新屋 ひとまず期限を切らずに、ちょっとお時間くださいってお願いして。見えてきたらご連絡しますっていう形で・・・
石井 そういう仕事もすごいよね!見えてきたらご連絡くださいって。
下阪 それ面白いっすね。
石井 初回のご提案まで2ヶ月近くかかっているので、通常の案件よりはかなり長く考える時間をいただいたわけですけど、待ってるあいだはどんな感じだったんですか?
加藤 リニューアルすることが必須で決まっていたわけじゃなかったので、本当にいいものができて、上り詰められたらやりたい、っていうスタンスだったんですよ。
野間 しかも、わたしたちはいろんな商品企画をスタートさせるとき、必ず佐藤(佐藤章 氏/湖池屋 代表取締役社長)と握ってから進めるんですけど、ムーチョに関してはこっそり進めたんです。
加藤 そうそうそう。
下阪 それは恐ろしい。
野間 で、最初にご提案いただいたときに「すごくいいのできてる!」って思えたので、こそっとゲンさんの名前を伏せて見せたら、こりゃいいじゃないかってなって。
石井 おお~。 劇的ですねそれ。
小林 で、実はゲンさんなんですけどってタネ明かししたら「ああ~」って。
石井 その「ああ~」はなんなんですか!?どういう「ああ~」なの??
加藤 「やられた~」って言っていましたね。
小林 「やられたわ~」って。
石井 それいいねえ~。
野間 わたしたちも佐藤に勝ったなっていう感じでした(笑)。
石井 しかもプレゼンしたのは一案だけだったんですよね。
加藤 そうですそうです、一案のみを。
石井 これでダメだったらちょっともう考えられない、って言って。それぐらい実は結構煮詰めてご提案しました。「カラムーチョの本質ってなあに?」みたいなところを、毎日喫茶店行って、ずーっと、考えるんですよね。本質を突き詰めるってやっぱりすごく難しい作業なので。単純に現代化するっていうことだけじゃなくて、カラムーチョのいちばん支持されてる理由の根っこのとこまで突き詰めないと、答えが絶対出てこないブランドだから、それに実はすごく時間がかかった。デザイン自体はぶっちゃけて言うと・・・ポコッてできたんだよな?
松野下 そうですね。


野間 最初に「エキサイティング」っていうキーワードを出してくださった。あれがすごい、わたしたちがずっと言葉にしたかったけどできなかったことが現されたって感じがしたよね。
加藤 それまで元気とか、パワーとか言ってたんですけど・・・
野間 キーワードが最初にあって、「それをデザインで表すとこうなんです」って出してくださったのが、すごい印象的だった!
小林 現代人がなぜ辛いものや酸っぱいものを欲するのか。それは気分をスイッチしてくれて、元気をくれる存在なんだと。初回のご提案の時点で、ほぼいまの形ができあがってましたね。
石井 元のパッケージにもギザギザはあったんですよね。それをギュッとシンボライズして真ん中に置いて、そこにロゴを置くっていうところが発見できたら、もうあとは早かった。
小林 なんか、飾り立てるんじゃなくて、大事な要素っていうか、一択に絞ってるっていうか。前はもう、ごちゃごちゃごちゃって、たのしそうな感じっていうのはいろいろ表現しているけど、一方でパワーの炎も出してて、刺激も表現して、どれにしようか決めかねてるようなところがあったものを、これはエネルギーなんだ!バンッ!みたいな。全集中してくれたっていうか。
小浜 全集中!流行りの。
野間 しかもあの、我々が悩んでいたおばあちゃんも、いい感じにね。
小林 ここね、実は結構検証しましたよね。
石井 最初はヒーおばあちゃんを線画にしてご提案してたんですよね。
小林 僕らとしてはもう、このカッコいいパッケージには居なくてもいいじゃんくらいに思ってたんです。だけど調査にかけてみるとやっぱり居てほしいと言われる。
石井 そうですよねえ、おばあちゃんデカいですよね。
小林 そしたらうまいこと、全体を崩さずにワッペンにしてくださって。

多様なブランド展開を受け止められるフォーマットを作る。

石井 ひとつすごく悩んだのは、ムーチョってすごくおっきなブランドなので、いろんな商品、いろんなフレーバーを展開していくじゃないですか。それの、いちばんど真ん中を作るっていうことは、本当にコンセプトがはっきりした求心力を持っていないと、展開したときにしっちゃかめっちゃかになるんですよね。「ただいろんなことやってるだけ」っていうブランドにならないように、すごく気をつけて。
加藤 なるほどなるほど。
石井 最初のお題はとりあえずカラムーチョの2品だけだったんですけど、すっぱムーチョになったらどうなるんだとか、海苔カラムーチョになったときに成立すんのかなあとかっていうことも考えながらやっていったときに、あれですよね「ムーチョ」のロゴの形を残したんですよね。
加藤 そうですね、最終的に全フレーバー一緒の書体で。
石井 「ムーチョ」のロゴは統一してプラットホームとして残すっていうやり方を、それは僕が発見したっていうよりも、みなさんとブラッシュアップしていく中で段々とそうなっていったっていうのもあって、そこはすごく共同作業としてうまくいったんですよね、結果的に。
小林 それも非常に長年の悩みであったんです。カラムーチョとすっぱムーチョは、買っている層とかユーザーも全然違っていて、辛いもの好きと酸っぱいもの好きは別に被ってるわけでもなく、なのに同じブランドで。なんかその、異質なものを両方抱えながら「ムーチョ」って言ってるところがあって、デザインもそう簡単には合わせられないよなっていう気持ちが強かったんですね。だから、すっぱムーチョももっとカラムーチョ寄りのデザインにする?みたいな話になったときに、本当にそれですっぱムーチョファンの人たちは大丈夫だろうかとか、すごい迷いもあった中で、ちゃんとユーザーが喜ぶ状態で、並べると「あ、兄弟姉妹なんだな」って思える、そのバランス感を最後まで検証いただいたっていうのは大きかったです。
石井 ここ苦労しましたけどね~すっぱはね~。
加藤 何回もやっていただきましたよね。
小林 すっぱのほうが三倍くらい苦労した感じしますね。
石井 最初は元のデザインから結構変えたプレゼンを・・・
小林 もっと背景も白っぽくしてましたよね、すっきり感を出すために。
野間 グリーンとかブルーを取り入れたりして。
小林 途中で調査にかけたものとしては、すっきり感をすごく強調したり、ロゴを最大限カラムーチョっぽくしていただいたり、反対に繊細な明朝も試したり。


石井 確かね加藤さんから、やっぱり「エキサイティング」とか「爽快」みたいなことを、きちんと残したいっていう話をいただいて。それでこのロゴを結構変えたんですよね、この「す」を。その時点では元のデザインにかなり近い、丸くて可愛い大きい「す」にしてたんだけど、「爽快」っていう価値を、ベネフィットをちゃんと現したいっていうお話をいただいて、それで最後にバンッてデザインが決まっていった。
野間 結果として元々のユーザーの方も喜ぶ方向になりつつ、あたらしいユーザーも入ってきたり、しばらく離れていた方にもう一度気づいてもらうきっかけになれる感じがすごいしますよね。
小林 そうそう好きだったんだよこれ!みたいな。
下阪 店頭では絶対映えますよ。
野間 これかなり生まれ変わると思うんだよなあ。本当に楽しみ。

定番リニューアルのプレッシャーに泣く。

石井 カラムーチョは35周年ですよね。この歴史はやっぱりほんとに重くて。
下阪 ゲンさんでも重いって!
石井 いや重いですよ!スコーンも相当重かったけど、カラムーチョってめちゃくちゃファンが居るし、なーんでお前変えたの!みたいに炎上したらどうしようとか。
野間 実はカラムーチョのリニューアルプロジェクトはここ3年くらいのあいだいろんな方向性を行ったり来たりしてたんです。やっぱりユーザーの方の声は無視できなくって、調査にかけては「前のほうがよかった」って言われるのが続いていたんですけど。でもこの新パッケージは、みんな、なんの異存もなく「こっちがいい!」って。
石井 でもたぶん、パッと見は変わったことに気づかない人も多いと思うんです。
野間 あ、わかります。色合いとか含めて、なんとなくで把握している人ですよね。
石井 うん、そういう人は普通に買うような気がしていて、それが実はいいなと。違和感がいつの間にかなくなっているっていうのが、多分着地どころなんだろうなって。
小林 イメチェンしたの気づかれてないけどいつの間にか高感度増してる!みたいな感じですね。
野間 小林くんみたいだな!
下阪 今日髪の毛セットするの忘れたん?
野間 えっ!忘れたのお?今日重要なときなのに~。
小林 いやいや、段ボール運んでたらちょっと、崩れちゃって・・・
下阪 ワックス貸そか?
小林 いいっすいいっす(笑)。

石井、クライアントにダメ出し!?

石井 でもね、湖池屋さんの仕事はね、なんかオリエンが面白いんですよ。
湖池屋 ??
石井 うん、デザインのオリエンっていうよりは、その商品の存在意義とか、自分たちがこんなものがいいなっていうことが、意外と剥き出しでやってくるんで・・・
小浜 それ褒めてないですよね。
石井 最初聞いたときは、毎回「ぇえ!?」って思うんですけど。
小林 そつがない、の真逆みたいなやつですね。
小浜 それはダメダメってことなんじゃ・・・
石井 クライアントによっては、もう答え出てるじゃんっていうか、これだったら素直にこのまま作ればいいですね、っていうようなオリエンもたまにあるんですよ。
野間 なるほどなるほど。
石井 それが良い悪いではなく、湖池屋さんの粗削りっぷりは・・・ヤバいです。


野間 すっ、すいません。
下阪 すすすすすいません。
石井 その分ね、原石がデカかったりするんで、削っても削ってもなくならない強いものが出来る場合がある。・・・ないときもあります。
小浜 目を合わせられない。
小林 でもふざけてるようで本気だし、とにかくやりたいという熱量は常にあるんですけど、その背景の悩みとかも全部一緒にオリエンしちゃうから。こうしたいんだけどこういう悩みもあります、でもこっちはダメです、でもこうしてください。みたいな・・・
石井 はいはいはい。
小林 矛盾してるままをぶつけているという。自覚はあるんですよ。
石井 でもやりたい熱量ってのがすごい大事で、それがないままのオリエンも他では結構あって。形はきれいなんだけど、結局あなたそんなにやりたくないでしょ?みたいな気になるようなのもある。その点湖池屋さんの熱量はねえ、すごいっすよ暑苦しいほどの。特に若い人たち。
下阪 猪突猛進やからねえ、真っ直ぐしか見えへんからね。
石井 なんかだって、このあいだも青木さんから届いた資料に「沼」とかって。なんだよ沼って~オリエンになってね〜よ〜みたいなさ、ときもあるんですけど、ああでももしかしたら、この人がこの資料写真を持ってきたことにはなにかの理由がきっとあって、こういうことをやったほうがいいのかなっていう、翻訳をしながらやるっていう。まあ大変な仕事なんですよね~(笑)。


野間 あ、いま佐藤がちょっと時間あるって言うんで・・・
石井 ちょ、待ってください。
野間 呼んじゃった!30分くらい時間あるらしいです。
石井 いや、長いな~ヤバいなこれ。
下阪 なんかのオリエン始まっちゃったりして。
加藤 社長これ、ふらっとくる感じ?
下阪 ふらっと来ます。ふらっと来て、次のムーチョの話するんじゃないですか?
加藤 それを言うならスコーンでしょ?
下阪 いやいや・・・
 
 
–– まさかのスペシャルゲスト、佐藤社長登場。トップは今回のリニューアルをどう見たのでしょうか!?第2回に続きます。
 

 >>> 第2回「スペシャルゲスト!社長登場」