ロックな男〜最強伝説大岩〜

9年前の話。
新しく僕のところにやってきたデザイナーは
「大岩」という名前からは程遠い、華奢でひ弱な仔鹿みたいな青年だった。
同僚の女性たちに比べて我が強いタイプではなく
声も小さくおとなしいので、いつもいじられ役だった。

決して要領のいい性格とは言えず、気の利いた返しも下手だったし
受け身な仕事ぶりに対してひどく叱ることも多かった。
歴代でいちばん叱られたデザイナーなんじゃないだろうか。
仕事において男女の区別してはいけないのだが
同性として「てめえ男だろ」と言いたくなるようなことも多かったので
他のデザイナーより当たりは相当厳しかったと思う。
それでも大岩は逃げずに黙々と仕事を続けた。


2014 8 ユタ州 モアブ

入社して4年経つころ一緒にアメリカにロケに行った。
同行していた大岩と同じ世代の若いプロデューサーやカメラマンのアシスタントに
刺激を受けたのか、これを境に少しずつ仕事に対する熱が感じられるようになった。

今ではチーフデザイナーとして率先して仕事をこなし
ひとりでクライアントと対峙し、信頼を得るようになった。
そして今年めでたく女の子の父親になった。
あの頃からこれといって要領がよくなったわけではない。
相変わらず声も小さくてたまに聞きとれないし、気の利いた会話も全然できない。
ただ黙々と、ゆっくりと彼らしいデザインを続けているだけだ。
それでも最近の大岩がやけにたくましく見えることがあるのは
彼が本来持っていた強さにようやく僕自身が気づくことができるようになっただけのことかもしれない。
大岩自身はあの頃から何も変わっていないのだ。

2020年。初めて出会ってから10年。
華奢でひ弱に見えた青年はすっかり(体型も)たくましくなって
独立することになった。
ネアンデルタールにとっては初めてのコラボレーターとしてこれからも仕事は続く。
彼の会社の名前はHuge Rock Studio。大きな岩は悠々と転がり続ける。
たくましくてやさしい、いい名前だと思う。
どうぞよろしく。

石井 原